『GOSICKVI ―ゴシック・仮面舞踏会の夜―』(桜庭一樹著) どうも私たち日本人というのは、”高潔”というものに憧れる民族であるらしい
修道院「ベルゼブブの頭蓋」から必死の思いで脱出した一弥とヴィクトリカを乗せた夜行列車「オールド・マズカレード号」。そこ乗り合わせた奇妙な乗客たち。<孤児>に<公妃>、<木こり>、<死者>と名乗る、自らの素顔を隠した謎めいた乗客たち。そして起きる殺人事件。暴走する列車、「赤い箱」を巡る争奪戦。
子どもたちは大人たちの思惑によって、敵同士となり、殺し合う。その運命に逆らえないかのように。
この物語の舞台は1924年のヨーロッパ。2つの世界大戦という嵐の谷間である。そして、20世紀というのは、古きものと新しいものが混沌として共存していた世紀であった。オカルトと科学。1つ目の大きな戦争で戦車と毒ガスが投入され、2つ目の大きな戦争では科学の勝利とも言える原子バクダンが投下された。戦争は、大量破壊兵器を生み、そしてそれが無差別に用いられる時代に突入する。
物語の最後でヴィクトリカが語る”高潔”。目的のためには手段を選ばす、ではなく、例え目的を達することができなくても、自らの信じるもののために殉ずる潔さ。21世紀の最初の10年は目的達成至上主義が全盛だった。自分の目的を達するためには手段を選ばず、自分の目的を達するためにためらうことを”弱さ”とする風潮。例え自分の目的を達することができなくても他者のために殉じることの潔さ。
そのようなものは、20世紀に”やまと”とともにアクエリアスの海に沈んだはずなのだが、どうも私たち日本人というのは、そういう”高潔”さに憧れる民族であるらしい。(”憧れる”と言って”持っている”と言わなかったのがミソ。)
![]() | ![]() | GOSICKVI ―ゴシック・仮面舞踏会の夜― (角川文庫)
著者:桜庭 一樹 |
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