« 映画『イエスマン “YES”は人生のパスワード』 ためらいながらでも”YES”ということの方が、実は”NO”ということより何倍も難しく、大切なことだ | トップページ | 『ホルモー六景』(万城目学著) 『鴨川ホルモー』のスピンオフ企画。『鴨川ホルモー』を読んでいれば面白さ3倍 »

2010年12月13日 (月)

『私が語りはじめた彼は』(三浦しをん著) ”無”を描くには、その輪郭を描くしかない。その筆力に圧倒される

私の家の近所の書店でイチオシになっていたので読んでみた。去年あたりから、三浦しをんの著書を読み始め、これまでのマイベストは『風が強く吹いている』であった。これは電車の中で読んでいて不覚にも公衆の面前で涙が溢れてしまった。この『私が語りはじめた彼は』は、そういう感動はないものの、三浦しをんの”筆力”に圧倒される作品である。

これは大学教授である村川融をめぐる物語である。物語の発端は村川氏をめぐる怪文書。誰が何の目的で書いたのか。村川氏の助手が捜査に乗り出し、まず手始めに村川氏の妻を訪れることから物語が始まる。村川氏のためと思って行動した助手氏だったが、実は自分の立場こそが脆くも危いものだったことを知る。

この物語は、村川氏の物語ではなく、彼を二重三重に取り巻くひとびとの物語である。ひとを形づけるのは周りのひととの”関係”だとするならば、村川氏ではなく、彼を取り巻くひとびとを描くことで、村川氏はいかなる人物なのかがわかるはずである。

しかし、それがまったく判らない。村川氏という男は、まったくの”無”である。”無”であるが、やはり彼を取り巻くひとびとが彼の人格を形作っている。”無”を描くためには、その輪郭を捕えなければならないが、ひとの輪郭とは、そのひとが結ぶ”関係”である。そして、その輪郭を描けば描くほど、その輪郭のうちが”無”であることが際立ってくる。
そして、この物語は、その”輪郭”の物語でもある。その”輪郭”は安定しているかのように見えて実は危いものであったり、危いものに見えて実は確かなものだったりする。

この物語の中で、私が一番好きな部分は、「予言」という短編の中にある。これは離婚することを父に告げられた高校生の息子の物語だ。彼は何かをふっきるようにバイクに乗り始め、これまで話をしたこともない椿という男子学生と親しくなっていくのだが、その彼に慰められて、彼は初めて「世界が滅びる」以外の予言を信じることができるようになる。

「雨が降る前には雨のにおいがするように、朝の光より早く鳥が囀るように、だれのことも脅かさない予言」

世界はそんな予言に満ち溢れているが、私たちはそれになかなか心を配れない。だからこそ、そういう予言を感じたり、信じたりできれば、素晴らしいと思う。

私が語りはじめた彼は (新潮文庫)Book私が語りはじめた彼は (新潮文庫)

著者:三浦 しをん
販売元:新潮社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


« 映画『イエスマン “YES”は人生のパスワード』 ためらいながらでも”YES”ということの方が、実は”NO”ということより何倍も難しく、大切なことだ | トップページ | 『ホルモー六景』(万城目学著) 『鴨川ホルモー』のスピンオフ企画。『鴨川ホルモー』を読んでいれば面白さ3倍 »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

フォト

他のアカウント

2019年9月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          

気になる、気になる

  • ざっくばらん坊 on twitter
  • amazon
  • blogram
  • 人気ブログランキング
無料ブログはココログ