『ヤマト王権〈シリーズ 日本古代史 2〉』(吉村武彦著) すぺーすばとるしっぷのヤマトよりもいにしえのヤマトに思いをはせよう
岩波新書の「シリーズ 日本古代史」の2巻は、ヤマト王権の成立から、律令国家への移行前夜まで、4世紀前半から7世紀後半までを扱っている。日本書紀が伝えるような万世一系の天皇家がこの国の始まりから支配していたのではなく、この国の成り立ちは、まずは、さまざまな勢力が共同で国の形を作っていったことが浮き彫りになってくる。
4世紀は空白の4世紀と言われるくらい、その時代を解き明かす資料が少ない。頼りは中国や朝鮮の日本に関する文献だが、この時期は中国も朝鮮も動乱が続いており、日本に関する記述が少ない。結局は、古事記や日本書紀に頼らざるを得ない、というのが辛いところだろう。
日本という国は天孫である神武から始まったとされ、2月11日の建国記念日はその神武が即位した日だとされているが、それは、後の世に作りだされた神話の世界の話である。その後の8代の天皇たちが150歳を超える長寿であったなんて、ありえない。そうなると、この国の最初の王は、本当は誰なのか。やはりこの疑問からこの時代の謎解きが始まる。
最初の王は崇神である、という解は説得力がある。卑弥呼の時代やその後の倭国の時代との連続、非連続はまだよくわからないが、崇神をもってヤマト王権の姿が明らかになってくる。その後の重要な王は、応神と継体だろう。”神”の名をつけた王はやはり重要な王であることは間違いなさそうだし、継体という王は、「体を継ぐ」。何かいわくのありそうな王だ。
古事記、日本書紀は、その実と虚と無を読み解いていく必要がある。何が本当で、何が嘘で、そして何を書かなかったのか。それをひとつひとつ点検して、記紀が何を隠しているのかを解き明かす必要がある。
歴史にはタンテイ眼が必要だ、というのは坂口安吾の主張でもある。自らの成り立ちと作家としての出発のために『吹雪物語』を書かざるを得なかったアンゴだからこそ、この国の成り立ちと新しいこの国の出発のために記紀を編み出さざるをえなかった日本という国に、似たような匂いを感じたのかもしれない。
とにかく、この時代は謎だらけで、面白い。38歳のキムタク古代進のすぺーすばとるしっぷよりも、この国の古代であるヤマトに思いをはせよう。
![]() | ![]() | ヤマト王権〈シリーズ 日本古代史 2〉 (岩波新書)
著者:吉村 武彦 |
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