『激変! 日本古代史 卑弥呼から平城京まで』(足立倫行著) 現地に行って、見て、聞いて、空気を感じる、ことはとても大切
タイトルに”激変!”とあるが、日本古代史についての新説を打ち出しているものではない。著者の出身地はゲゲゲで有名な鳥取県境港市で、隣の米子市には妻木晩田遺跡があり、神話の国出雲にも近い。そういうこともあってか、歴史に興味をいだくようになったのだろうか。
著者は歴史学者ではなく、ノンフィクション作家。著者の視点は、あくまで”歴史好き”であり、ノンフィクション作家という性なのだろう、文献にあたり、現地に足を運んで、その空気を吸い、ひとの話を聞く。
そして、日本古代史というと、”歴史好き”が大好きな「邪馬台国はどこにある?」から、その旅は始まる。著者は結論としては畿内説を支持しているかのようだが、それでも畿内説の問題点や疑問点に向き合おうとしている。その点では好感がもてる。しかも、それを現場の声を伝える、という点が良い。奈良、吉備、出雲、上野(こうずけ)、九州と邪馬台国やヤマト王権の成り立ちを探る前半はとても面白い。
後半は、これもまた日本古代史の主要な話題である「聖徳太子はいなかった?」。著者は明言しているように、日本書紀はデタラメで聖徳太子はいなかった、という大山誠一氏の説の視点から、この問題を見ている。前半が、現場重視で公正さを心がけていたのと一転し、後半はやや結論ありき、となっているのが残念だ。
今年1月、私は奈良の明日香村を訪れた。甘樫丘や飛鳥寺、石舞台古墳などをめぐりながら感じたのは、「ここは蘇我氏の都だったのだな」。私は常々、歴史を解き明かすのはタンテイの仕事だと思っているが、まず現地に行って、見て、聞いて、空気を感じる、ことがとても大切であることを、この本を読んで再認識した。
![]() | ![]() | 激変! 日本古代史 卑弥呼から平城京まで (朝日新書)
著者:足立倫行 |
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