『デフレの正体 経済は「人口の波」で動く 』(藻谷浩介著) 高齢者の増加と現役世代の減少。この2つの問題に目を背けてはいけない
私の最近の関心事は、”デフレ”である。”デフレ”で良いことは何もない。”デフレ”から抜け出す方法はないものだろうか、と考えいる。この本のタイトルは、まさに『デフレの正体』。しかも、それに続くのが、「日銀が悪い」ではなく、”経済は「人口の波」で動く”である。
第1講:GDPはその国の経済の”総合健康指数”であり、その数値が上がった、下がったという議論はあまり意味をなさない。”個別指標”に目を向けて、個別の問題に注力していかなければ、経済はよくならない。GDPを上げるという議論は結局掛け声だけになってしまう。
第2講:輸出がふるわない、と言われているが、なんとバブル崩壊後に輸出は2倍になっている。これはびっくり。中国が台頭すれば輸出はますますふるわなくなると思いがちだが、実は中国はビッグなお客様。日本の製品がブランド力をつければもっと輸出が増えるはず。
第3講:前年比で国内の需要が落ち込んでいる、というが、国内の需要が落ち込んでいるのは、実はここ2,3年の話ではない。もう13年も内需は落ち続けている。
第4講:よく地方の商店街がシャッター通りになったというニュース映像が流れるおかげで、地方は元気がない、元気があるのは都心と名古屋圏だけ、と思いがちだが、実は、個人消費は地方よりも都心の方が落ち込んでいる。
第5講:輸出は実は伸びている。内需は実はここ13年落ち込んでいる。都会と地方との格差というものは実はない。では、なぜ、内需が伸びないのか。それは、すばり「現役世代人口の減少」に原因がある。つまり、一番ものを消費する世代の人数が減っているから、消費が減っているのだ。それは、都会だろうが、地方だろうが、平等に起きている。
一方で、高齢者は増え続ける。しかし、高齢者は積極的に消費をしない。将来の健康不安や収入の不安に備えて、高齢者はお金を使わない。そして、現役世代も、その絶対数が減っているうえに、将来の雇用や収入の不安からお金を使わなくなっている。だから、消費が落ち込む、内需が伸びない。
デフレ脱却論者の方法論は、日銀にお札をバンバン刷らせて市場にバラ撒けば、消費が増える、というものだ。しかし、最近、私は例えお金の供給が増えても、将来の健康や収入、雇用の不安が解消されない限り、そのお金は消費ではなく貯蓄に向かい、結局、デフレ対策にはならないのではないか、と思い始めていた。現役世代の減少という局面において、内需を増ややすには何をすればよいのか。
第6講:現役世代、つまり働き盛りで一番消費をする世代はこれから減り続ける。そして、お金を使わない高齢者は増え続ける。つまり、この状況のままであれば、これからもっと内需は減り続ける。
第7講:働き盛りの世代が減り続けても、”生産性の向上”でカバーできるというのは、幻想である。日本のものづくりを支えてきたのは、この”生産性向上”なのだけれども、このデフレという局面では、結局は在庫が過剰になり、安売り競争に拍車をかけ、企業の利益やひいては私たちの所得をも圧迫する。デフレを脱却するどころか、ますますデフレに拍車をかけてしまう。
第8講:では、デフレを脱却するためには、何をすれば良いのか?著者は3つの方法を提言をする。
1.生産年齢人口が減るペースを少しでも弱める
2.現役世代の所得の総額を維持し増やす
3.個人消費の総額を維持し増やす
著者は率ではなく、あくまで総額にこだわる。
第9講:提言その1は、高齢富裕層から若者層への所得の移転である。若者の所得が1.4倍に増えれば、現役世代が2割減っても内需は維持される。そのためには団塊世代の大量退職で減る人件費を若者の所得に回す、ということ。その他、生前贈与を促進するなど、お金を使わない世代からお金を使う世代にお金を回そう、というものだ。
第10講:提言その2は、女性の就労者を増やそう、というものだ。海外から労働者を受け入れるよりも、行政サービスの負担がなく、女性が働きにでることにより所得が増えれば、経済的にも子どもを産み育てるゆとりができる、と著者は言う。
第11講:提言その3は、外国からの観光客をもっと呼び込もう、というもの。そして、日本でものをどんどん買ってもらおうというもの。もはや銀座や秋葉原が中国人観光客に占領されている。どんどん日本にお金を落としていってもらいましょう。
補講:高齢者はこれから増加し、行政の負担が増えることは明らかだが、一律にバラマキをするのではなく、困窮している高齢者にセーフティネットを、逆に富裕高齢者からは若者層にお金を再配分してもらいましょう、ということ。
経済は、「景気の波」でうごいているのではなく、「人口の波」で動く。「人口の波」は「景気の波」を飲みこむほどの大きなうねりとなって経済を動かす、というのは本書の趣旨だろう。近視眼的な景気の波に一喜一憂して小手先の景気対策をしていたのでは、デフレの脱却も経済成長も成しえない。高齢者の増加、現役世代の減少というもうすでに起こっている問題から目をそむけずに、高齢者が健康やお金の心配をしなくてもすむ世の中に、現役世代が雇用の不安をかかえずにしっかり働き、稼いで、そしてその今を楽しむためにお金を使う、そんな世の中にしていきたいものだ。そういう世の中の方が、楽しそうではないか。
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著者:藻谷 浩介 |
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ご無沙汰です。
すみません、
最初に著者のお名前に反応してしまいました(苦笑)。
確かT高の先輩ですよね?
N経新聞等でよくお名前を見ている気もします。
投稿: ba2 | 2010年10月21日 (木) 22時12分