『GOSICKsII―ゴシックエス・夏から遠ざかる列車―』(桜庭一樹著) ”別れ”の予感が、幼い彼らの物語を切なくさせる
桜庭一樹のGOSICKシリーズ短編集その2。つい最近、『赤朽葉家の伝説』を読んだばかりなので、桜庭一樹のまた違う顔を観たような気がする。
舞台は、夏休みで生徒たちが故郷に帰り、生徒たちがいなくなった聖マルグリット学園。アブリルからの地中海ヴァカンスの誘いを蹴って学園に残った一弥は、ヴィクトリカとふたりだけの夏休みを過ごす。
相変わらず、幼い彼ら。ヴィクトリアは彼女の知識の泉と空腹を満たすため、謎とお菓子を求める。その望みをかなえるべく、一弥は小間使いのごとく奔走する。
表題作「夏から遠ざかる列車」は、若き日のセシル先生となにかと一弥にちょっかいを出すセクシーな寮母さんとの物語。いずれ、訪れるであろう、ヴィクトリアと一弥との別れを予感させる物語だ。そう、彼らの関係の先には、”別れ”が待っている。読者である私たちは、その”別れ”の予感を感じるから、この幼き者たちを愛おしく思い、彼らの物語に切なさを感じてしまうのだろう。
「花降る亡霊」、「怪人の夏」、「初恋」は、恋にまつわる物語だ。幼い彼らのまわりには、恋が溢れている。彼らはそれを恋と気づかないのかもしれなないが、それでも恋は溢れている。「怪人の夏」は、一弥の姉と、彼女に思いを寄せる帝国軍人との恋の物語だ。職業婦人を目指す彼女と、観た目はよろしくないが実はジェントルマンな彼。彼らの恋も前途多難なようだが、絆というものは、観えないうちから実は強く結ばれているものである。
![]() | ![]() | GOSICKsII―ゴシックエス・夏から遠ざかる列車― (角川文庫)
著者:桜庭 一樹 |
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