『E=mc2――世界一有名な方程式の「伝記」』(ディヴィッド・ボダニス著) 科学者はこのE=mc2という方程式がもたらしたものの大きさときちんと向き合っていかなければならない
E=mc2 というのは、題名にあるとおり、世界一有名な方程式だろう。すぐにアインシュタインという人物を連想するひとも多いだろう。(音楽好きなひとには、マライア・キャリーかもしれないが、、、)
エネルギーは質量と等価である。
この本は、アインシュタインの伝記本ではない。まさに、このE=mc2という方程式が歩んできた道のりをふりかえっている。まず方程式を、<エネルギー>、<イコール>、<質量>、<速度>、<二乗>という要素に分解し、それらが、科学の歴史の中で、どのように認識され、発展を遂げてきたかを描く。それは、古き常識と新しき発見との戦いであり、また若い天才のひらめきと権威主義的なアカデミズムとの戦いの歴史でもある。
そして、1905年。ひとりの天才の”ひらめき”が、このE=mc2という方程式を発見し、このE=mc2はまさに、世界を変えてしまう。この方程式は、核分裂により巨大なエネルギーを生み出すことができることを人類に知らしめる。そんな中、人類は2度目の世界大戦に突入する。ドイツとアメリカによる核兵器開発競争。ドイツが脱落し、アメリカはついに核爆弾を手に入れる。
手にした兵器は使いたくなる。かくしてアメリカは、落とさなくても戦争を終わらせることがわかっていたにも関わらず、広島と長崎に原子爆弾を落とす。
ドイツ・アメリカによる核兵器開発競争は、著者の筆に熱がこもる。ノルウェイにあった重水工場襲撃のくだりは、戦記ものか、と思えるくらいに熱を込めて描いている。
一方で、科学史における最大の汚点、いや、人類史上における最大の汚点である、広島、長崎への原子爆弾の投下は、あっさりと流している。
「一九四五年に広島上空の爆発で発せられた閃光は、月の軌道に達した。(中略。)だが。銀河にとってみれば、とるに足らないきらめきのひとつでしかない。」
いくらロマンティックな言葉を尽くしても、科学史における最大の汚点、いや、人類史上における最大の汚点を消えることはない。科学者はこのE=mc2という方程式がもたらしたものの大きさときちんと向き合っていかなければならない。そういう覚悟が、今日の科学者には求められていることを忘れないでほしい。
![]() | ![]() | E=mc2――世界一有名な方程式の「伝記」 (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)
著者:ディヴィッド・ボダニス,David Bodanis |
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