『トレードオフ―上質をとるか、手軽をとるか』(ケビン・メイニー著) 「上質」さか、「手軽」さか。どっちつかずが一番悪い
トレードオフというのは、二者択一というよりは、どっちかをとればどっちかはとれない、こっちをとればそっちはあきらめないといけない、という意味合いが強い。イメージ的には、一本の線で右と左に矢印が伸びているイメージだ。
この本の訴えるドレードオフとは、「上質」か、「手軽」かであり。その方向は縦と横に向いている。「上質」でも「手軽」でもない、どっちちがずの領域を”不毛地帯”と呼ぶ。その例として、著者は、ブルーレイ・ディスクや電子書籍などを挙げている。
そして、「上質」がウリだったものを「手軽」にしてしまうと、例えばブランドが廉価品販売に経営の舵を切ると、いままで積み上げてきたブランドイメージを一気に棄損してしまい、たちまち経営に行き詰ると言う。こういう例は想像に難くない。
一方で、「上質」である「手軽」なものは、”幻想”だとも言う。本書では取り上げていないが、日本の自動車や電化製品などのプロダクツは、その”幻想”を追い求めているのかもしれない。そして、中国もその”幻想”を追い始めたのではないかと著者は言う。中国の場合、「手軽」から「上質」へ舵を切ろうとしているが、それに成功したのは、たぶん、日本の”ものづくり”だけではないか、と私は思う。そして、それは中国がすぐに身につけられるものではない、と私は思う。
果たして、日本の”ものづくり”は”幻想”を追い求めていた(いる)のだろうか。ただ、惜しむべきは、突出したものがないのは確かである。何故、日本人がiPhoneやiPadを開発して商品化することができなかったのか、をよく考えてみるべきだろう。そういうインパクトがあるプロダクトを日本は産み出してこれなかったと言えなくもない。(世界にインパクトを与えたのは、唯一、ソニーのウォークマンくらいではないだろうか。)
「上質」をとるか、「手軽」をとるか。それは企業だけに求められる戦略ではない。私たち個人の仕事もしかり。オンリーワンのスキルを身につけて勝負するか、フットワークの軽さで勝負するか。だいたい、ビジネス本を読むと、後者は使い捨てになるぞ、前者を目指せ、というのだけれど、果たしてそうだろうか。この本で取り上げられたいろいろな事例から、個人が学べることも多いように思う。
![]() | ![]() | トレードオフ―上質をとるか、手軽をとるか
著者:ケビン・メイニー(著),ジム・コリンズ(序文),内田和成(解説) |
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