『人生の大義 社会と会社の両方で成功する生き方』(北尾吉孝、夏野剛著) ”大義”などと仰々しく言い立てることはない。ひとりひとりが”ちょっとだけ”より良く生きようとすればいいじゃないか
SBIホールディンググス代表取締役執行役員CEOの北尾吉孝さんと、ドワンゴ取締役夏野剛さんという、ネットビジネスの成功者2人による、対話集。テーマは人生の”大義”。
彼らの言う”大義”とは、「世のため人のため働くこと」、「世の中を変革するような大きな仕事をすること」、「後世に残るような大きな仕事をすること」に要約される。
そして、大きな仕事、”大義”を成すためには、社会人になって10年間は滅私奉公して能力を身につけ、その能力を35歳から65歳までの働きざかりのときに発揮する、ということだ。社会人になって10年間は、とにかく我慢して辞めずに働くこと。社会人になってすぐに諦めたり、転職したり、会社を辞めたりのはもってのほか、と若者を叱咤する。
この本がターゲットとしている読者は、所謂”エリート”だろう。”エリート”とはいざとなれば他人のために命まで差し出して戦う武士のようなもの、と彼らは言う。こうして、”エリート”たちは”大義”を成すのだろう。
しかし、今問題なのは、会社に入ってすぐ辞めてしまう若者よりも、働きたくても若者に働き口がない、ということだろう。”エリート”とは言えない多くの若者たちが、力を発揮できる場を提供することが、彼らのような経営者に求められていることではないか、と私は思う。
彼らは、終身雇用、年功序列の弊害を言う。確かに、大企業の部長さんクラス以上の方々は責任を取ろうとしないし、社内の派閥争いに没頭するなど、弊害も多い。しかし、若者がそれこそ、10年間、のびのびと働ける場を作ることに、日本の経営者はどれだけ力を割いてきたか、私ははなはだ疑問である。
働き口がない、就職できても明日どうなるかわからない、そういう不安の中で、”大義””大義”と言い囃しても、どれだけ若者の心に届くだろうか。
また、”大義”ほど危険なものはない。世のため人のため、日本のため、と”大義”を振るかざしたひとたちが、どれだけ他人迷惑だったか、世の中を悪くしてきたか、この20年を振り返ってみればよい。
あまり”大義”などと、大げさに言いたてるものではない。ひとりひとりが”ちょっとだけ”より良く生きようとする、その積み重ねこそが、他人を思いやり、世の中を変革していき、そして後世に残る仕事を成すことができるのではないだろうか。
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著者:北尾 吉孝,夏野 剛 |
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