『街場のメディア論』(内田樹著) 本とは贈り物であり、それに対する「ありがとう」、そこから生まれる「反対給与義務」が本の価値を創造する
「街場」シリーズの第4弾。アメリカ論、中国論、教育論に続いてメディア論である。そして、メディア論は、新書でお目見え。
第1講:キャリアは他人のためのもの
「街場の教育論」からの引き続きなのか、教育、そしてキャリアについて。「他人のために働く」ことにより、自分の才能を開花することができる、という指摘は、若いひとたちにはぜひ耳を傾けて欲しい。
そして、これが、この本の伏線になっている。
第2講:マスメディアの嘘と演技
第3講:メディアと「クレーマー」
第4講:「正義」の暴走
「知っているくせに知らないふりをして。イノセントに驚愕して見せる」メディアの罪について。NHKの21時代のニュースや、22時代のテレビ朝日のニュースのキャスターの態度がこれに当たるだろう。メディアはまず弱者の立場に立たなくてはならないが、弱者のフリをするのは罪である。
そして、その態度は、メディアの言動を”名無し”にしてしまい、誰も責任をとる必要がなくなる。ゆえにメディアは時に暴走する。
第5講:メディアと「変えないほうがよいもの」
メディアにとって、社会制度が変わることは、その情報市場の価値が高まることであり、情報の売り手としては歓迎すべきである。ゆえに、医療改革だとか教育改革だとか、短期的に劇的に変えることには弊害がある制度にたいしても、メディアは変化を煽る。
そのメディアは今、日本の総理大臣が変わるかもしれないことに怖れをなしている。これはまた、面白い状況だ。
第6講:読者はどこにいるのか
「本を読みたい人」は減っていない。にも関わらず、出版が危機だとするのは、それは「読み手に対するレスペクトの欠如」だとする。出版が真に大事にすべきは「本を買う消費者」ではなく「本を読む読者」だ。今、電子書籍が立ち上がろうとしているが、電子書籍は、これから本を読むかもしれないひとまでを想定して、その利便性を提供していることが、既存の出版に対する優位性だとする。出版の本=商品とし、対価を支払わなければ読みたい本を読ませない、という姿勢は早晩立ち行かなくなると指摘する。
また、この講では、自分の【書棚】に本を並べることにも言及している。本を読むひとは、自分の【書棚】というものを意識するものだ。
第7講:贈与経済と読書
第8講:わけのわからない未来へ
この部分が、この本のウルトラCである。本とは贈り物であり、それに対する「ありがとう」という気持ち、そこから「反対付与義務」が本の価値を創造すると言う。本=商品を売る、消費者として本を買う、という流れでは、出版はこれからは成り立たない。より多くの「反対給与義務」を受け取るには、実は、本を読みたいひとにどんどん本を読んでもらって、消費者ではなく、読者を育てることこそ、有効なのだ。
![]() | ![]() | 街場のメディア論 (光文社新書)
著者:内田 樹 |
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