『果つる底なき』(池井戸潤著) 組織の中で、友人のため、自分の大切なひとのため、そして自分のために、戦う小説
池井戸潤の作品を初めて読んだ。最近では、『空飛ぶタイヤ』や、NHKでドラマ化された『鉄の骨』など、話題の作家。まずはデビュー作を読んでみようと、書店で手に取った。
『果つる底なき』はデビュー作にして第44回江戸川乱歩賞受賞作。必ずしも江戸川乱歩賞受賞作が名作であるとは限らない。しかし、デビュー作を読めばその作家の作品を好きになれそうかどうか、判断がつく。
この作品の主人公は銀行の融資担当の伊木。「これは貸しだからな。」という謎の言葉を残して、彼の友人で債権回収担当の坂本が謎の死をとげる。
銀行の中の学閥という力学、主人公は自分が正しいと思うことをしてそこからはみ出し左遷させられた、という過去をもつ。銀行という組織の中でもアウトローな存在として設定されている。その彼が友人の死の謎を追ううちに、彼はまたも組織の壁、銀行の闇に突き当る。
この作品の一番の圧巻は、企業が不当りを出して倒産する、そのわずか数時間のせめぎあいを、実況中継のように描いている場面だ。倒産を回避させたいという主人公だが、銀行の論理はそれを許さない。お金を貸した側の一方的な論理がお金を借りた側の生活を根底から壊してしまう。
私は普段あまり企業小説、ましてや銀行を舞台とした小説を読まないので、この作品で描かれる銀行の裏側を興味深く読むことができた。終盤の主人公の活躍ぶりが肉体派のハーボイルドっぽいのだが、それを差し引くと、組織の中で、友人のため、自分の大切なひとのため、そして自分のために、戦うということを描いた作品だと言える。
目をそむける、折り合いをつける、赦す、こともできるかもしれないのに、主人公は立ち向かい戦うことを選んだ。そういう人物を組織はなかなか受け入れるものではないが、組織と個人のせめぎあいはドラマになる。
![]() | ![]() | 果つる底なき (講談社文庫)
著者:池井戸 潤 |
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