【本棚に残す3冊】 もし、あなたの本棚に内田樹センセーの本が3冊しか残せないとしたら、あなたはどの本を残しますか?
久しくしていませんでした、この企画。第6弾は内田樹センセーです。内田センセーの本に出会ってまだ2年ですが、特に「学び」というものの考え方に強く惹かれます。最近は自分が期待するアウトプットを得るための勉強が「学び」だと思われているようですが、そういう想定内の成果を得ることが「学び」ではないのですね。むしろ、自分が想定していなかった発見なり出会いなり体感なりをすることを「学び」と呼びたい思います。
まずは、
『下流志向〈学ばない子どもたち 働かない若者たち〉』
なぜ子供は学ばなくなったのか、なぜ若者は働かなくなったのか、をこれほど明快に解き明かした本を私は寡聞にして知らない。その2つの問いの答え、問題の根源は、「子どもたちは就学以前に消費主体として自己を確立している」とし、消費者マインドで教育や労働と対峙する結果、教育や労働に”等価交換”を求める。
勉強する機会があるのに勉強しない、働く機会があるのに働かない、という志向は結局、彼らの未来を犠牲にしてしまい、それが格差を生んでいるのだが、しかし、それを”自己責任”と言い放ち、放置し救済しないのはおかしいだろう、と内田センセーは言う。
”自己責任”という経済市場主義者にとって都合の良い思想が蔓延しているが、個がリスクをとってその見返りを得るのを最良とする(個がリスクをとった結果損失を被っても自己責任だから仕方ないとする)社会よりも、集団がリスクをヘッジしてリターンもロスも分かち合う社会の方を目指すべき。私もそう思う。
![]() | ![]() | 下流志向〈学ばない子どもたち 働かない若者たち〉 (講談社文庫)
著者:内田 樹 |
次には、
『橋本治と内田樹』
私の好きな作家であるる橋本治と内田樹の夢のような対談本。あなたのことはとっても興味があります、という内田樹と、わたしのことに興味があるって言われても困るんだけどなあ、という橋本治。
対談というより、橋本治というわけのわからない作家の、内田樹による解説本というべき内容。
![]() | ![]() | 橋本治と内田樹
著者:橋本 治,内田 樹 |
最後に、
『日本辺境論』
日本人ほど「日本人とは何か」を問い続けていきた民族はこの地球上でもかなりマレであるし、私たちはそれを問い続けるのだろう。「世界標準」とか軍隊や核兵器をもった「ふつうの国」を目指すという不毛な努力をするよりは、日本や日本人は「辺境」「辺境人」であることを自覚して、「辺境」「辺境人」だからこそできることをしていこう、という姿勢は正しいと思う。また、この本では「学び」や「機」、「日本語」についても言及されている。
特に「学び」の部分では、学ぶ前からそのアウトプット(報酬)を期待するのは「辺境人」の学びではない、という指摘されている。昨今は、とかく効率や報酬を追求する「学び」が重宝されているようだが、一見非効率でどんな報酬が得られるのか判らない学びの方が、意外なアウトプットを得られて楽しいものだ。
![]() | ![]() | 日本辺境論 (新潮新書)
著者:内田 樹 |
さて、この企画は7番勝負です。したがって、次回がラストですが、もう、ラストは誰か、想像に難くないですね。
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