『その後の仁義なき桃尻娘』 (橋本 治著) 若い男というのは、「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」しか語るべきものを持っていないのだろうか?
『桃尻娘』の続編。桃尻娘こと榊原玲奈は浪人生となり、この小説では、オープニング・アクトと、トリを務めている。浪人になった桃尻娘は、ただ「イヤなものはイヤ」と言うだけである。
そして、木川田源一が恋している先輩・滝上圭介が2番手の語り手である。このカッコイイのかカッコわるいのかよくわからない青年の告白の大部分は、「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」である。ヒドイところは、見開き2ページ、すべて「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」である。
橋本治はそんなにしてまで原稿代がほしかったのか? もちろん、違う。当時はパソコンもワープロも普及していないし、そもそも、橋本治は、パソコンもワープロも使わないので、橋本治は、ただ、延々と「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」を手書きで書きつつけたのである。なんという努力家であろうか!
そして、若い男というのは、「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」しか語るべきものを持っていない、というのが、橋本治の若い男に対する見方でもある。若い男には、何の内実もない、ということに尽きてしまう。
自分がヤッてしまった女の子が妊娠しても、「だから?」である。自分が関係している問題も、その答えを丸投げである。この思考停止が、若い男が年をとったときに、”思いつきでものを言う”上司になる。それが、橋本治の男に対する見方である。
続く、醒井涼子はめんどくさいのでパス。ホモの木川田クンもあまりにも切なすぎるのでパス。
この本で一番ページをとっていて、そして、なんだかよくわからない話が、磯村薫クンである。彼は一言で言うと、少女マンガの中で生きている少女マンガの主人公(少女)である。彼は自分の外から物語が訪れるのをただ待っているだけである。男が忍んでくるのをたた待っている平安時代の貴族の女性のように。
橋本治は、後に『窯変源氏物語』を書く。これは光源氏に”一人称”で語らせるというウルトラCをやっていて、それは、内実のない男に、精いっぱい内実を持たせようとした試みだったのかもしれない。
その光源氏ですら、晩年は、”思いつきでものを言う”上司になってしまうのが、悲しいのだが。
![]() | ![]() | その後の仁義なき桃尻娘 (ポプラ文庫)
著者:橋本 治 |
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