【本棚に残す3冊】 もし、あなたの本棚に坂口安吾の本が3冊しか残せないとしたら、あなたはどの本を残しますか?
うーん、我ながら、これは困った。『坂口安吾全集(全18巻)』(ちくま文庫)じゃ、ダメ?
えっ、ルール違反だって?! 誰が決めたの、そんなルール。 あっ、私か。
まずは、『桜の森の満開の下』。この作品との出会いがすべての始まりでした。
「そこは桜の森のちょうどまんなかあたりでした。四方の涯は花にかくれて奥が見えませんでした。日頃のような怖れや不安は消えていました。花の涯から吹きよせる冷たい風もありません。ただひっそりと、そしてひそひそと、花びらが散りつづけているばかりでした。彼は始めて桜の森の満開の下に坐っていました。いつまでもそこに坐っていることができます。彼はもう帰るところがないのですから。」
私にとっての心のふるさととも言える作品です。
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桜の森の満開の下 |
次は、『日本文化私観』。安吾といえば、『堕落論』なのでしょうが、私の心に響いたのはこっちです。法隆寺のくだりは以前にも引用しましたが、もう一度引用しますよ。
「見たところのスマートだけでは、真に美なる物とはなり得ない。すべては、実質の問題だ。美しさのための美しさは素直でなく、結局、本当の物ではないのである。要するに、空虚なのだ。そうして、空虚なものは、その真実のものによって人を打つことは決してなく、詮ずるところ、有っても無くても構わない代物である。法隆寺も平等院も焼けてしまって一向に困らぬ。必要ならば、法隆寺をとりこわして停車場をつくるがいい。我が民族の光輝ある文化や伝統は、そのことによって決して亡びはしないのである。」
これほど端的に安吾の心意気を表した文章は他にありません。
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日本文化私観 |
最後は、『信長/イノチガケ』。『吹雪物語』にしようかと思ったのですが、ひとに薦めたいという観点でこっちにしました。『イノチガケ』は死ぬのが分かっているのに布教のため日本にやってきては死んでいく宣教師たちの物語。そのスーサイドとも言える行動、その情熱はなんなんだ、と思わずにはいられない。
あちらこちらでイノチガケ。生きていくということはイノチガケなわけです。
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信長/イノチガケ |
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『桜の森の満開の下』
『青鬼の褌を洗う女』
『夜長姫と耳男』…
もう一冊だけ!『不連続殺人事件』もだめ?!
投稿: アビィ | 2010年6月27日 (日) 20時48分